2018年11月11日日曜日

タッチウエイトマネジメント研修会2018 名古屋・大阪・北陸会場は終了しました


北陸会場の一場面

名古屋会場 (1 day introductory course in Nagoya)
今年の名古屋会場は日本ピアノ調律師協会中部支部の主催で行われました。今回初めてとなるため、初級編です。タッチウエイトについて解説したのち、グループごとにスタンウッド測定を体験いただきました。ストライクレシオを計算した後いくつかの要素を変更してそのタッチ感の変化を味わい、バランスウエイトを測定してその変化を考えました。
また、3要素関連表や平衡等式の使い方を実習し、スマートチャートも作成しました。

 タッチウエイトの変化を体験中 (Experiencing changing touch weight)

スタンウッド測定 (Measuring each element of Stanwood protocol)

大阪会場 (2 x one day intermediate course in Osaka)
大阪会場は昨年同様日本ピアノ調律師協会関西支部の主催により行われました。昨年2日間の研修会で初級から中級までやっていたので、今回は中級を中心に行いました。冒頭の講義では復習に加えて昨年以降に新たに開発した内容も含めました。
スタンウッド測定をやってストライクレシオを計算した後、慣性モーメント計算に必要な要素を測定し、実際に換算慣性モーメントも計算してみました。
その後3要素関連表の使い方、平衡等式を利用した分析方法、スマートチャートを利用したHSWの調整方法などを演習し、簡単な実習を行いました。ハンマーへの鉛入れ・ハンマーのテーパー削り、バランスパンチングクロスの半カットなど実際に体験していただきました。今回は少人数での実技を含めた研修会を計画したので、希望者を2グループに分け、それぞれ一日ずつ研修会を行いました。

スタンウッド測定  (Measuring each element of Stanwood protocol)

数値の検討をする参加者 (Discussing about given figures)

北陸会場 (2-days practical course in Hokuriku) 
北陸会場は一昨年と昨年に続き3年目の研修会です。日本ピアノ調律師協会北陸支部の主催で行われました。今回は実習に徹し、少人数で一台を仕上げることを目標にしました。必要なデータは前日の準備で参加者で都合の付く方有志で採集しました。
1日目は簡単な復習の後3グループ(低音3名、中音3名、高音3名)に分かれ、さっそく鍵盤とウイペン、そしてハンマーの加工に取り掛かりました。
実際にやりながらポイントを説明したり、空いた時間にその作業の目的ややり方を説明して進めたので実技のツボを深く体験できたのではないかと思います。
作業は思ったより早く進み、一日目でかなりの部分の作業を終了できました。
2日目は鍵盤バランスピンを磨いたり、ダンパーの掛かりを再調整したり、一日目で終わらなかった作業を進めたりと並行して行いました。
昼ごろに整調まで終わったので、SRの微調整を行いました。ウイペンのシムは中央に入れてあったのでBWが少ないものはシムをフレンジ側に、BWがまだ大きすぎるものはシムをジャック側に動かしその変化を観測しました。最終的には設定した目標BWにかなり近く揃えることができました。試弾をして作業前とのタッチ感を比較して研修会を終えました。
鍵盤鉛穴の穴あけ  (Bore hole for key lead)

ウイペンフレンジのトルク調整 (Re-center whippen flanges)

各種鍵盤鉛が用意されています (Several sizes of key lead were ready to use)

ハンマーのテーパ加工 (Tapering hammer to lighten the SW)

バランスパンチングクロスの半カットのための接着剤塗布 (Put glue to key stick to change Strike Ratio)

不要になった鍵盤鉛の穴は埋め木し、黒色塗料を塗ります (Blacken sharp keys)

ハンマーテール加工は用意した捨てハンマーで体験しました (Tail hammer with the jig)

整調後DWとUWを測定しBWが目標よりずれているものを、ウイペンのシムを動かしてSRを微調整することによりより均一なタッチウエイトを実現します (Measure BW to do  fine adjustment of Strike Ratio)


2018年10月30日火曜日

中部太平洋ピアノ技術者コンフェレンス2018



ピアノテクニシャンズギルド(アメリカ協会)ハワイ支部主催による中部太平洋ピアノ技術者コンフェレンス2018に参加しました。オーストラレージア協会も協賛として関わっています。参加者は少なめでしたがオーストラリア・ニュージーランド・カナダ・アメリカ本土からの参加がありました。

オーストラレージアン協会からは、会長であるマイケル・ライアンがダンパーの講義、副会長である私がタッチウエイトの講義を行いました。他にアメリカ本土からの講師、ディーン・レイボーンやランディ・ポッターなどのお馴染みの顔もありました。

私の講義は1時間20分、アメリカ系の技術者はスタンウッドについてはよく知っている人が多いので、スタンウッドのカバーしていないが重要なテーマである慣性モーメントについて集中的に話しました。このテーマでは具体的な内容は、アメリカでもまだ出版もセミナーも開かれていないので、かなり聴講者の興味を引いたようです。
今回使ったスライドショーのPDFファイル版を配布しましたが、半数以上の参加者が申し込んでくれました。PTGの現会長含め多くの人から大変好意的なフィードバックをいただき、より自信を深めることができました。
オーストラリアからの参加者はすでに以前のコンベンションでも私の講義を受講している人が多かったのですが、内容がより深く分かりやすくなった、とお褒めいただきました。
「タッチウエイトマネジメントの方法」英語版を望む声も少なからずあり、役に立つ助言もいただいたので、今後しばらくその実現に向けて注力していきます。
日本での研修会ではこの講義の一部を抽出して使用します。今回配布した英語版のPDFは日本での研修会終了後私のウェブサイトからダウンロードできるようにする予定です。

講義の様子

2本のレバーを用意し慣性モーメントを変えて角加速度の違いを比較しました。

ギアレシオの説明には新しく考案した図を使って説明しました

今回の全参加者

ワイキキそばにあるダイアモンドヘッドからの眺望


2018年7月6日金曜日

タッチウエイトマネジメント研修会2018のお知らせ



お待たせしました。中村によるタッチウエイトマネジメント研修会2018の計画が決まりました。今年はハワイで行われる中部太平洋ピアノコンフェレンスと日程を揃えるために11月の開催となります。

10月22日(月)~25日(木) 中部太平洋コンフェレンス in Hawaii 
ピアノテクニシャンズギルド(アメリカ協会)主催、オーストラレージアピアノ調律師協会協賛で行われます。

22日は参加登録、23日~25日の午前中に複数の講義が並行して行われる予定です。中村の講義は1時間20分枠で2コマ予定されていますが、どの日になるかは未定です。英語での講義ですが、日本からの参加者がある程度いる場合は日本語も併用する予定です。1つはタッチウエイトに問題がある場合のトラブルシューティング、もう一つは慣性モーメントのタッチウエイトへの影響、の予定です。
参加申し込みはPTGのウェブサイトからどうぞ。
お問い合わせは中村 まで

Yuji will be giving one or two class/es about touch weight topic at Mid-Pacific Piano Conference, Waikiki, Hawaii held in October 22nd to 25th.

11月3日(土) 名古屋会場 全日研修会 
      ニッピ中部支部主催 中部楽器技術専門学院にて
      入門編~初級編を計画しています。
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11月5日(月) 大阪会場 全日研修会(5・6日の2日間研修会の可能性もあり) 
      ニッピ関西支部主催
      中級・上級編あるいは実技編を計画しています。

11月8日・9日(木・金)金沢会場 2日間研修会 
      ニッピ北陸支部主催
      実技編です。実際に一台のピアノを仕上げる予定です。
      実技参加者6名枠(参加費会員2日間で1万円、非会員同2万円昼食込み)
      オブザーバー参加可。ただし質問や実技参加はできません。
      (参加費:会員は1日あたり1000円、非会員は同2000円昼食込み)

11月14日(水) 東京会場 全日研修会 
      ニッピ関東支部主催
      中級編を予定しています。

中村は来年2019年5月に予定されている世界ピアノ技術者製作者協会・浜松大会に参加するために訪日する予定です。研修会も訪日中に開催可能です。研修会の開催に興味のある団体・グループは中村までお問い合わせください。

Yuji will be giving seminars at four places in Japan, Nagoya (3rd Nov.), Osaka (5th Nov), Kanazawa (8th & 9th Nov.) and Tokyo (14th Nov.) in 2018. 



2018年1月27日土曜日

Bosendorfer action, Touch Weight Management



Bosendorfer grand action, rebuilt in Poland, was coming to our workshop to modify touch weight and get servicing.
This action showed typical polish rebuilding quality as usual i.e. poor details even cosmetically good. It has new hammers & shanks. Major worn parts were replaced. But there were many details where not good enough for the level which the client wanted to play such as too heavy touch weight, poor regulation, limited tonal possibilities. The client wanted to have standard touch weight because of too heavy at the moment. Also expected good variety of tonal palette as well as comfortable play-ability. 

今年一台目の仕事はタッチウエイトマネジメントでした。大ボスが持ち込んできたこのピアノ、ポーランドで大修理されたものだそうです。ポーランド修理のピアノは他にも見たことがありますが、ほとんどが「外装はきれいだが内装は?」の品質が定番ですが、このピアノも果たしてその通りでした。ハンマーやシャンクは新品、各部のフェルト・クロス類も交換されています。
顧客はアマチュアのピアニスト、買ったは良いがタッチが重すぎて弾けないからなんとかしてほしいとの要望。

Initial observation showed below results;
- Hammers were not tapered nor tailed 
- Knuckles were lubricated (?) with too much graphite (photo below)
- Key balancing was done. it seemed OK cosmetically.
- Key bushings were all tight, balance holes are loose
- Shank & whippen flanges seemed tight  
- Strike ratio by 2g weight was 5.8.

初期観察の結果、
①ハンマーのテーパーやテール加工がされていない、
②ローラーがジャックが触れないところも含めてべったりと黒くなっている(下写真参照)
③鍵盤鉛はそこそこ悪くなさそう。やった形跡はあり、
④鍵盤ブッシングがガタなし。バランスホールはスカスカ。
⑤シャンクフレンジとウイペンフレンジは固めなのでトルク調整要
⑤2gおもりによるSRは5.8、と意外に悪くない。

Too much graphite was applied

The elements of Equation of Balance by Stanwood protocol were like below:
- BW: 37g to 40g, Standard
- SW: #8 (3/4 medium) ~ #9 (Top medium)
- FW: relatively lighter side in bass and tenor, similar to ceiling level
- KR: 0.44 ~ 0.47 within 6 sample notes, smaller ratio and uneven
- SR: 5.4 ~ 5.6, relatively smaller than normal action 
- F: 12 g ~ 17 g, normal to a bit bigger 

These figures show actually it is within reasonable standard, but it is felt if one played it. I supposed friction was the main cause especially key bushings. 

サンプル鍵盤でのスタンウッド測定の結果は、
BW:37g~40g で標準
HSW:#8~#9
FW:低中は比較的軽め、次高はシーリング値付近
KR:0.44~0.47と普通より小さめでばらつき大きい
SR:5.4~5.6と普通より小さめ
F:12g~17g

これらの数値から見るとスタンウッドの標準値から見ると意外なほど悪くないわけですが、実際の弾いた感じはかなり重いのです。フリクションの影響がかなり大きいのではないかと思われました(特に鍵盤ブッシング)。

See first half of the SW in the smart chart below which they are plotted in blue for even numbers. The green line shows target level. Red dot at mid-C is adjusted as sample. It was not felt so heavy in top treble section, so the hammers there were not required much reduction. 

偶数鍵のスマートチャートは次の通り。サンプルで試した40Cはテーパー削り済で赤印。他はオリジナルの値。緑線が目標HSWライン。高音部は現状で重すぎないため、無理して削らないカーブにしました。低音の上の方と中音部が特に重めなのがわかります。

SW (even numbers) plotted on Smart chart in blue

As SR was low even from standard already, it can't be decreased because the action may need too deep key depth to get after touch due to lower action ratio. So in this case, reducing hammer weight and treating Friction would be the area needed to be done first. The FW values could be adjusted by calculation of Stanwood's equation of balance before assembling. then see how SR can be adjusted later. 

方向性としてはHSWを中低音を中心になるべく軽く揃えて、フレンジ・鍵盤ブッシング・ローラーなどのフリクション部分をしっかり調整し、鍵盤鉛はFW基準で事前に調整、そして整調まで仕上げた段階でSR調整をするかどうか決めることにしました。

Re-centering shank flanges, blush knuckles, adjusting SW, pre-voicing and tailing while hammers are out

Weight before and after tapering

HSW調整では削る前の重さを量り、削った後に必要量減ったかどうか比較します。HSW測定のやり方をする必要はありません。

Smart chart, completed SW (red)

Completed SW adjustment shows smart chart above. Maximum 1.1 g of reduction. No hammer lead was needed.

奇数鍵も含めて仕上がった段階のスマートチャート。赤点が仕上がり。最大1.1gの減量をしました。ハンマー鉛入れの必要はありませんでした。

FW graph, Blue: original, Green: target and red: FW ceiling by Stanwood

Key balancing was done with traditional way in Poland I supposed. FW graph shows really uneven weighting result. Due to variety of friction level, uneven SW (blue in smart chart above) and FW, the action should be felt very unevenly. 
With this work, SW and FW were adjusted smoothly and F was corrected to standard. Final touch weight will be much better. More variety if we find still will be caused by uneven SR which is expected by uneven KR.

FWのグラフ。赤線がシーリング、ぎざぎざの青線がオリジナル、滑らかな緑線が目標FW値(仕上げは±1gで調整しました)。

After regulation, the action was played and measured to check touch weight. It was felt slightly still heavy on white keys in tenor and bass. Those areas showed actually higher KR (and SR) at initial measurement. So we decided reducing SR by cutting balance punching cloths in the area (only white keys). Cut 1/3 in tenor and 1/2 in bass by reflection of KR figure.

整調をある程度やったところで試弾。大ボスと打ち合わせの上、中音から低音の白鍵をもう少し軽くしたい、ということでパンチングクロスをカットしました。KRが中音白0.45黒0.44、低音は白0.46黒0.44だったので、低音白は半カット、中音白は三分の一カットにしました。

Gluing half cut punching cloths in bass

1/3 cut cloth doesn't need gluing to key stick or paper washer

中音白鍵はクロスの穴を残す形でカットしたので、そのまま貼らずに入れてあります。低音は半カットして既存のパンチングペーパーに貼ることにしました。

整調を軽く見直しておしまいです。

The work completed followed by touch up regulation. The action was returned and set up to the piano.

3 days Touchweight Management seminar lead by myself will be held in Sydney, Australia in April 2018. Please contact me at yuji3804@gmail.com if you are interested in participating it.

2018年1月25日木曜日

ベーゼンドルファーのタッチウエイトマネジメント



今年一台目の仕事はタッチウエイトマネジメントでした。大ボスが持ち込んできたこのピアノ、ポーランドで大修理されたものだそうです。ポーランド修理のピアノは他にも見たことがありますが、ほとんどが「外装はきれいだが内装は?」の品質が定番ですが、このピアノも果たしてその通りでした。ハンマーやシャンクは新品、各部のフェルト・クロス類も交換されています。

顧客はアマチュアのピアニスト、買ったは良いがタッチが重すぎて弾けないからなんとかしてほしいとの要望。

初期観察の結果、
①ハンマーのテーパーやテール加工がされていない、
②ローラーがジャックが触れないところも含めてべったりと黒くなっている(下写真参照)
③鍵盤鉛はそこそこ悪くなさそう。やった形跡はあり、
④鍵盤ブッシングがガタなし。バランスホールはスカスカ。
⑤シャンクフレンジとウイペンフレンジは固めなのでトルク調整要
⑤2gおもりによるSRは5.8、と意外に悪くない。


サンプル鍵盤でのスタンウッド測定の結果は、
BW:37g~40g で標準
HSW:#8~#9
FW:低中は比較的軽め、次高はシーリング値付近
KR:0.44~0.47と普通より小さめでばらつき大きい
SR:5.4~5.6と普通より小さめ
F:12g~17g

これらの数値から見るとスタンウッドの標準値から見ると意外なほど悪くないわけですが、実際の弾いた感じはかなり重いのです。フリクションの影響がかなり大きいのではないかと思われました(特に鍵盤ブッシング)。

偶数鍵のスマートチャートは次の通り。サンプルで試した40Cはテーパー削り済で赤印。他はオリジナルの値。緑線が目標HSWライン。高音部は現状で重すぎないため、無理して削らないカーブにしました。低音の上の方と中音部が特に重めなのがわかります。

方向性としてはHSWを中低音を中心になるべく軽く揃えて、フレンジ・鍵盤ブッシング・ローラーなどのフリクション部分をしっかり調整し、鍵盤鉛はFW基準で事前に調整、そして整調まで仕上げた段階でSR調整をするかどうか決めることにしました。

まずはフレンジのトルク調整、事前針刺しもします。

HSW調整では削る前の重さを量り、削った後に必要量減ったかどうか比較します。HSW測定のやり方をする必要はありません。

奇数鍵も含めて仕上がった段階のスマートチャート。赤点が仕上がり。最大1.1gの減量をしました。ハンマー鉛入れの必要はありませんでした。

FWのグラフ。赤線がシーリング、ぎざぎざの青線がオリジナル、滑らかな緑線が目標FW値(仕上げは±1gで調整しました)。

整調をある程度やったところで試弾。大ボスと打ち合わせの上、中音から低音の白鍵をもう少し軽くしたい、ということでパンチングクロスをカットしました。KRが中音白0.45黒0.44、低音は白0.46黒0.44だったので、低音白は半カット、中音白は三分の一カットにしました。


中音白鍵はクロスの穴を残す形でカットしたので、そのまま貼らずに入れてあります。低音は半カットして既存のパンチングペーパーに貼ることにしました。

整調を軽く見直しておしまいです。