2017年7月23日日曜日

スタインウェイB型のタッチウエイトマネジメント

あるピアノの先生が古いカワイの代わりに中古で購入したスタインウェイのB型。それほど前ではない時期にハンマーとウイペンが交換されています。このピアノが特殊なのは、ニューヨーク製の本体にハンブルグ製のウイペンとハンマーが装着されている点です。意図的に行われたというよりは手に入りやすいものを使ったと考えられます。

昨年購入したそうですがタッチが重く弾きづらいとのことで事前チェックに伺いました。詳しく話を聞くと、全般的に重いという前提の上で、特に低音域でピアニッシモでの速いパッセージを弾く時に音が出づらく抜けてしまうことがあるとのことでした。またタッチのばらつきもあり、とても弾きづらいそうです。

アクション全景

チェックで見えてきた状況は次の通り。
1、ダンパーのかかりが5mmから10mmで早すぎで、ダンパーペダルを使わない演奏では初動で指に重さが掛かり弾きづらいと思われる。また、W型ダンパーフェルトが弦に深く食い込んでおり、弦から離れる時の抵抗が意外とピアニッシモでは引っかかるのではないか。
2、スプレッド寸法が低音111mm、高音112mmとかなり短め。ウイペンレールには何も挟まれていないので、ウイペン・ハンマー交換時にこの寸法は調整されていないようだ。この寸法が短いとウイペン入力寸法・出力寸法両方に影響があるが、入力寸法の方により大きな影響をもたらすので、ギアレシオが高くなっていると思われる。
3、シャンクフレンジとウイペンフレンジがスティック気味のため当然重く、動きづらく感じる。
4、ストライクレシオは5.6から6.2とばらつきが大きい。これはサンプル鍵での鍵盤レシオが5.0から5.3とかなりばらついていることが原因の一つで、横からキャプスタンのラインを見通すと前後に明らかにわかるばらつきがある。
5、ハンマーストライクウエイトは指標8から9で意外と重くはなく揃いも悪くは無い。
6、フロントウエイトはシーリング値辺りから+6gで、やや重すぎ傾向である。
7、鍵盤鉛は「アクセラレーテットアクション」での説明とは異なり一般的な手前に寄せた配列になっている。低音大4~5個、中音大2~4個、次高音大1~2個、とやや多めに見える。DWの数字と足された鉛の様子から、以前のハンマー交換の際に伝統的なDW基準の鉛調整が行われたことが想像される。

ウイペンとシャンクを両方ハンブルク製に交換してあるので、その部分での問題はありませんでした。キャプスタンも直立で植えられており、通常のアクションの動きをしています。


手前寄りから間隔良く入れられた鍵盤鉛:本来アクセラレーテットアクションでは慣性モーメント軽減のため鉛はバランスピン寄りに配列されると解説されている。このピアノでは工場出荷状態でこのような鉛入れをされている。

アクセラレーテットアクションのもう一つの特徴であるかまぼこ型バランスクロスブロックは健在

データを検討した結果次の作業を提案しました。
1、W型ダンパーフェルトのトリミングと掛かり調整
2、アクションの全フレンジのトルクチェックと再調整
3、アクションスプレッド寸法の基準値への調整
4、ハンマーストライクウエイト調整
5、ウイペンヒールへの薄板挿入によるストライクレシオの削減とばらつき修正
6、鍵盤手前中央付近に重心を置いた鍵盤鉛配置
7、コンサート演奏レベルでのペダル調整、整調と整音・調律

この仕事での重要なポイントは2つあり、ひとつはスプレッド寸法を適切に設定しなおすところ。ギアレシオのタッチウエイトへの影響を把握していないと見過ごしてしまうところです。
もう一つは、キャプスタンスクリューの位置のばらつきをヒールへの薄板挿入の位置調整によって相殺させるところです。これはFW基準の鍵盤鉛調整を行った上で、BWを見ながらヒールの薄板位置を調整することで可能になります。
なお、かまぼこ型バランスクロスブロックですとクロスを半カットすることによるレシオ調整は効き目がかなり少ないので、今回ここには手を付けません。

現在アクションを引き取って作業を開始しています。何か面白い発見があれば続報を投稿する予定です。