2016年11月29日火曜日

APTTA コンベンション2017のお知らせ


オーストラレージアピアノ調律師・技術者協会コンベンションのお知らせです。来年2017年10月17日より19日までの日程で行われます。

APTTA Convention 2017 will be held on 17 to 19 Oct 2017 in Adelaide, South Australia.

APTTA総会と共に技術セミナーでは初級から上級まで幅広く多様な講義が行われる予定です。また、スポンサーによる展示もあります。

私は1時間半の講義を2つ行う予定です。1つは新しいアクション部品(シャンク・ハンマーやウイペン)を装着するときのセットアップ手順を解説します。現物アクションを題材に具体的に重くする場合と軽くする場合をセットし、弾き心地を比較する予定です。
もう一つは慣性モーメントについて掘り下げていきます。まずそれがどのような概念なのかを簡単な体験を通じて理解していきます。そしてギアレシオとは何か、それによって個別の慣性モーメントがどのように換算慣性モーメントとして変換されるのかを考えます。

I have been invited for two 1.5 hour lectures at the convention.   

Class 1, “Grand action set-up”
Replacing hammer, hammer shank (and whippen) is one of common jobs for us. In this class, I am focusing on the view of touch weight parameters which affect both static weight and kinetic resistance. Touch weight can be adjusted within reasonable range for variety of clients who request lighter, moderate or heavier touches. Show procedure and make actual samples where you can reach.    
Class 2, “Understanding inertia”
Understanding inertial effect is essential for us to build up better touch intentionally. However we have known very little fact about it. “Dynamic touch weight” was one of them but it doesn’t explain much about what we can do on it. In this class, try and feel actual inertial effect with actual parts. Also we are looking at gear ratio and linked moment of inertia to understand this phenomenon deeply.    

詳細は今後APTTAのウェブサイトを通じてアップデートされていきますので興味のある方はそちらをチェックしてください。http://www.aptta.org.au/conventions.aspx
なお、これらの講義の内容は日本での研修会シリーズ(中・上級編)にも取り入れる予定です。

Please refer APTTA web site (link above) for further information. Contact Guus for any inquiry about this event. (His contact details are in below document.) 





2016年11月20日日曜日

スタインウェイDのチューブラーレール交換


今回の仕事のメインはスタインウェイDモデルでの亀裂の入ったチューブラーレール交換と錆びて膨らんできた鍵盤鉛の交換でした。ピアノ自体はかなり古く、しかも30年程度前にすでにリビルドしてあります。(スタインウェイロンドンで行ったものだと聞いていますが、質はイマイチな感じです。)

鍵盤鉛がとても多く近接しすぎて割れていたりもしていました。ハンマーは肉厚がありテーパー加工も少なく重めの感じでした。

まずは修理部分から。穴の開いていないレールを購入してあったので、オリジナルのレールに合わせて穴の中心位置を出しドリルで加工します。ボール盤に広い作業台を固定した上でドリルの中心を正確に合わせます。写真は座繰り加工の様子。


チューブラーレールの断面は下の写真のような形状なので、2本の細いレールを使ってレールが揺れないようにし、また加工穴が垂直になるようにします。


工房の隣が鍛冶屋さんなので、穴あけの済んだレールと位置出しジグを持ち込み交換加工をお願いしました。古いレールを取り去って、新しいレールを溶接してもらいます。

レール交換が終わったら、フレンジの載る部分をきれいにしておきます。

ハンマー+シャンクは元のものを使いますが、装着前にハンマーストライクウエイトの測定をしました。低音が#10~11、中音#9~11、次高音#11~12、高音は#13~でしたので、加工限界量を考慮に入れながら目標ラインを決めてテーパ加工を行いました。最終的に低音#10、中音#9~11、次高音#11~12、高音は#13での仕上がりです。今回は鍵盤鉛の量を減らすのが主目的なので、さほど厳密な加工ではなくかなりあったばらつきを低めに揃える程度にしました。

ストライクレシオとギアレシオを一段下げるためにウイペンヒールへ布ペーパーを挟み込みました。ウイペンの作業ついでにレペティションスプリングの溝にべったりグリス状のものが塗られていたのでそれもきれいにしておきます。

シャンクを組み込み間隔や走りを粗調整、ウイペンを組み込みこちらも同様に粗調整します。今回の修理はアクションだけを持ち帰っているので、弦合わせはピアノに組み込んだ状態で仕上げます。アクションスプレッドも確認しましたが、おおむね1mm以内のずれで収まっていました。

整調をします。レールの位置がずれているせいでかなりの作業量になりました。

鍵盤はアクションの作業に並行して同僚にお願いしました。古い鉛をすべて抜いて割れた木部を修理、不要になる鉛穴は木目方向を合わせたプラグを埋めて接着、鍵盤鉛調整に向けて準備完了です。

バランスウエイト基準の鍵盤鉛調整をしました。コンサートピアノは鍵盤が長く慣性モーメントが大きすぎるので鉛重心位置を中央よりにしたいところですが、今回は元の鉛穴を有効活用したいということもあり低音・中音では手前の大きい鉛一つはそのまま入れて残りの分を中央めに配置しました。それでもレシオを小さくしたこともあり、もともと6~7個入っていたあたりでも最高4個で済ますことができました。

事前の作業が終わったので、会場に持ち帰りピアノでの作業。弦合わせなどかなり大変でしたが、最終仕上がりは満足いくものとなりました。

タッチウエイトマネジメントを利用しての仕事の一種として紹介しました。今回は平衡等式や表計算も使用せず、まずは軽くすること・鉛を減らすことを前提に作業しました。ハンマーストライクウエイトを調整するためにスマートチャートのみ使用しました。ストライクレシオも計算していません。これまでの経験でスタインウェイの数値は把握できていましたし、タッチウエイトは補助的な仕事だったのでこれで十分と判断しました。