2013年12月11日水曜日

タッチを変える Page 32+33: 終わりと補足


これでシドニーでの講義に使ったスライドショーは終わりです。お付き合いありがとうございました。

シドニーでは1時間半の枠でやりましたが、特に耳新しかったと思われる中盤の説明部分で質問が多々あり、時間を使ったため、後半は十分な説明をする時間が取れませんでした。参加者が理解しながら、疑問を解消しながらやるのであれば2時間半は必要だったかもしれません。

今回の日本語版では1日1ページ、アップロードしてきました。読んでいただいたみなさんには十分咀嚼する時間が取れたと思います。スライドによって内容の濃いものも薄いものもありましたので、間が空きすぎていたと感じる日があったかもしれません。スライドを日本語で書き直し、ブログに転載して解説を書き加える作業を1日1ページ行うのは結構大変でしたがなんとか終わりまでたどりついてほっとしています。

最後に補足を書き添えておきます。アメリカ人のピアノ設計者フランク・エマーソン氏による鍵盤鉛の重心位置比率の考え方です。この論文はピアノテクニシャンジャーナル2013年4月号で発表されました。

この比率は鍵盤手前側の長さと鍵盤鉛の重心位置を表した値です。数字が小さいと鉛の重心がバランスピン側にあり、大きいと鍵盤手前に近いということになります。彼の実験と研究によると、この値が0.429のときに、指で入力された加速度が最大の効果を発揮するということです。私の慣性モーメント計算表には参考のためこの数値を表示する項目(CoG (Center of Gravity) Position ratio)が入れてあります。この辺りはエマーソン氏も研究中のためこれに続く論文が待ち望まれる所です。私も計算表に入れてそれを独自に研究しています。

表では3つの鉛配置の例を載せました。それぞれ次の通りです。
例A:オリジナルの鉛配置、CoG値は0.731(慣性モーメントの最大値に近い)
例B:最小の慣性モーメント値を達成できる配置。CoG値は0.299
例C:CoG値0.429を達成できる鉛配置の例



2013年12月10日火曜日

タッチを変える Page 31: タッチを変えるためにもっとできること


前2枚のスライドで紹介したのは基本的に今ある姿を有効に活用して最大限の効果を得ようとする要素でした。普通の仕事の範囲ではそれらだけでも費用がかさみ、躊躇する顧客も多いものと思います。ここでは、それを超えていくらでもコストをかけられる場合にもっと何ができるのかまとめました。部品を交換し整調や鉛調整などすべてやりなおさなければならないのでコストが高いというのがこれらの特徴となるでしょう。しかしそのコストをかけることでさらに精度の高いタッチを達成することができます。または、ハンマー交換の仕事を請けたときは、これらの技術を使っても極端に時間が余分にかかるわけでもないので、さらに質の高いタッチに仕上げて納品することが可能です。

まず始めはトキワ製作所社製の「マジックホイップ」ウイペンに交換するという方法です。これは特にアメリカの部品会社「ピアノテック」を通じて販売されていますが、日本国内では製作元のトキワ製作所から直接購入できます。この商品にはウイペンアシストスプリング調整機能が付いており、ねじでバランスウエイトを調整することができます。また、ウイペンヒールが接着されない状態で売られていますので、マジックラインを調整しながらアクション比を変更することも可能です。慣性モーメントもそれに応じて調整できることになります。

現行品はスタインウェイ用かメイソンハムリン用のフレンジで供給されます。ヤマハなどで使用する場合でもフレンジを交換すれば使えます。ループコードが付いていますので普通のヤマハのフレンジを付け換えるのではなく、それを自分で改造することが必要です。トキワ製作所では依頼すれば特注で製作してもらえるものと思います。

次はピッチロック社で販売している「タッチレール」に変更する方法です。鍵盤押さえをこの製品と交換します。レールに調整ねじつきスプリングが内蔵されていて、鍵盤を軽く押す感じでセッティングしタッチウエイトを軽減します。交換に手間がかかりますが、いったんセットしてしまえば時に応じてタッチの重さを変えることが可能です。とにかく軽くしたいというだけならレールを付けて調整すればおしまいですが、精密にタッチウエイトを調整したいときは、バランスウエイトをやや重めに鉛調整しておき、その上でこの機能で微調整することになります。直接慣性モーメントを変えることはありません。バランスウエイトを調整するならば、その時に調整することは可能です。

ハンマーを交換するのも高価ですがタッチを変えるオプションの一つになるでしょう。特にハンマー交換する仕事を受注した場合は購入時にその重さをチェックした上で選ぶとタッチウエイトの問題が事前にある程度解消されて全体の作業を楽にするでしょう。ピアノテックではハンマーストライクウエイト加工済みのパーツを販売しているとのことです。

シャンクローラーの位置は0.5mmの違いでもタッチに大きく影響します。これはハンマーの入力側の寸法の問題ですが、アクションレシオやストライクレシオ・等価慣性モーメントすべてに大きく関わってきます。シャンクを交換する修理のときはセンターピンとローラープレート間の寸法を十分注意して選ぶ必要があります。ハンマーはそのままでシャンクだけ交換することはあまりなく、ほとんどハンマーと同時に交換することになるでしょう。同じメーカーであっても時代によってこの位置が違う場合がありますので、シャンクに接着済みのハンマーで交換するときは部品を派注する前に良く調べておくべきでしょう。

WNG社のシャンクはローラーの位置が0.5mm単位で調整できるようになっており、接着されていない状態で手に入ります。自分でこれらを分析した後、適切な位置に自分で接着することになります。ただしこの商品はカーボンファイバー製なのでハンマーの接着にしてもセンターピン交換にしてもやり方が違います。シドニーで会ったこの会社の設計者の話では打弦時の跳ね返り係数も違うので整音にも違う取り組みをする必要があるということでした。

最後のオプションである鍵盤と鍵盤筬の新調は、めったにすることはないと思います。基本は鍵盤バランスピンの位置を変えることによってタッチを変えようと言うものです。アクションレシオやストライクレシオなど変わります。作った後には修正が効きませんので、事前に精密なチェックが必要でしょう。

表には載せていませんが、これの発展形としてスタンウッドイノベーションズではSALA(スタンウッド・アジャスタブル・レバレージ・アクション)という商品も開発しています。鍵盤の支点を動かしてタッチを変えることのできる機構を持っています。これの優れているところは、パンチングを切るの方法とは違い、鍵盤の支点部分を無段階で調整できるところです。しかし、彼のウェブサイトを見ますと、何台かはすでに作られていて特許も取っていますが、積極的には販売していないようです。

タッチの重さは主に2種類の視点からそれぞれの要素を考える必要がありました。その要素であるバランスウエイトと慣性モーメントは、いろいろなやり方で調整が可能で、私の提案するやり方によって行えば2つの要素をそれぞれ考えながら、同時にそれぞれを適当な値に設定して意識的にタッチの重さを作り上げることができるということを紹介してきました。

今回の講義はこの手法の基礎講座で、基本的な考え方と元になる理屈の部分を解説するものでした。次の段階ではこの手法のアップライトピアノへの応用や、一台全体をバランスよく仕上げるために必要な技術、実際の作業におけるノウハウなど、を解説していくことになります。

来年ブリスベーンで予定されている1日研修では、基礎講座の後、実際のアクションを使っての実技研修を行う予定で、現在それに向けた第2段階にあたるスライドショーの作成に取り掛かっています。

現実的にはこのスライドで講義は終わりですが、次のスライドで終わりのスライドと補足のスライド1点をお見せする予定です。

2013年12月9日月曜日

タッチを変える Page 30: タッチを変える方法とその効果(その2)

鍵盤鉛調整はここまで紹介してきたやり方を含めて実施するとタッチの変更に、より効果的です。単純に言うとタッチを軽くしたいときは鉛をなるべくバランスピンに近い側に配置し、重くしたいときは逆になるべく手前に配置するか、両側に鉛を配置することです。この操作で慣性モーメントが調整されます。目標にするバランスウエイト値で調整することによってバランスウエイトも設定できます。

鍵盤には鉛を出し入れできる広い領域がありますので、ある程度自由に配置を選ぶことができ、作業性も良好です。繰り返し調整できるのもメリットです。

フリクションの調整自体はセンターピン交換やブッシング張替え・調整など比較的簡単です。しかし全鍵のフレンジセンターや鍵盤ブッシング・鍵盤バランスホールを実施するとなると相当時間がかかります。しかしながらアクションがスティックなく、ガタもなくスムーズに動くことがピアノとしての最低限必要で、タッチの重さを調整することはそれからのことですから、ここはきちっとチェックしておかねばなりません。スティックしているとダウンウエイトが重く、アップウエイトが軽くなってしまうのでタッチが重いと感じられます。

ローラーやキャプスタンスクリューなど、部品同士が擦れあう場所は黒鉛等のこびりついた汚れをきれいに清掃して、適当な潤滑剤を使って滑らかな動きにします。

最後に上げたアクション部品の位置関係もアクションが正常に動くために必要な項目です。弦の高さとシャンクフレンジの高さ・ハンマーの穴あけ位置の関係、シャンクセンターとウイペンセンターの距離、2つのマジックライン(鍵盤-ウイペン、ウイペン-ハンマー)を適切に調整することなど、本来アクションがあるべき姿に戻すというのがこの調整の役割です。もっともこれによってタッチの重さが劇的に変わることはあまりないでしょう。素性のわからないアクションや過去に好ましくない修理が行われたと疑われるようなアクションなどはチェックしておくのが賢いと思われます。

2013年12月8日日曜日

タッチを変える Page 29: タッチを変える方法とその効果(その1)

さて、最後にこの講義で紹介してきた手法のまとめとして、タッチの重さを変えるためにどこを、どのように変えて、その結果どのような結果を得られるか表にまとめました。スライドのスペースの関係から3枚に分けてあります。今日はその一枚目になります。

まず、ハンマーの質量調整です。すでに述べたようにハンマーウッド部を削ることによって質量を減らし、タッチを軽くします。あるいは重くするときはハンマーに専用鉛を挿入し、かしめます。最大で1g程度の調整しかできませんが、バランスウエイトにも慣性モーメントにも大きな変化を及ぼすことができます。作業をするためにハンマーを外して測定・加工しなければならないので、全部をやろうとするとそれなりに時間がかかります。この調整をした後に鍵盤の鉛調整もするのであれば、さらに時間がかかります。従ってどこまでやるかによって費用は変わります。一部の音域でハンマーの質量調整で済ませば少なめで済みますが、全音域で仕込みから鍵盤鉛調整・整調までひっくるめてやるのであれば数日かかり、費用は相当かかるでしょう。

アクションレシオとストライクレシオを変えると、バランスウエイトと慣性モーメント両方を調整できます。これを調整するためには2通りあり、一つはバランスパンチングクロスを切る方法、もう一つはウイペンとキャプスタンの接点を移動する方法です。

パンチングクロスを切る方法では切るか切らないかの選択しかできません。(スタンウッドイノベーションズでは調整式のシステムを販売していますが、これは3枚目で紹介します。)切った場合にはアクションレシオが変わるためアフタータッチが変わりますので、あがきや打弦距離を見直す必要があります。ですが、切る作業と整調作業をやっても数時間でできますので、費用は比較的安く済みます。

ウイペンとキャプスタンの接点を移動するやり方は、ちょっと大変です。ウイペンヒールを切断し高さを調整したうえで接着し直すか、ヒールクロス部をクロスを剥がして平らに加工し、スペーサーで高さを調整した上で新しいクロスを貼るかしなければなりません。この接点を移動するときは鍵盤-ウイペン・マジックラインに沿って接点を動かす必要がありますので、ヒールを手前に移動するときはヒールが高く、奥に移動するときは低くなるはずです。

キャプスタンスクリューは全部抜いてから穴を埋め木し、新しい位置を決めた上で穴あけしなおしてスクリューを植えます。作業としては難しくありませんが、時間はそれなりにかかります。新しい位置は移動可能なダミーのキャプスタンを作り、マジックラインとヒールの位置を見ながら決めます。もちろん、整調がかなり変わりますので、全体にやり直す必要もあります。お察しの通りこのやり方は時間がかかります。中程度からかなり高価な修理となるでしょう。

なお、シャンクローラーの位置を変えてもレシオを変えることができますが、費用が段違いに高くなるので、3枚目にて説明いたしします。

タッチの重さを変える簡便な方法としてキャプスタンスクリューをアルミニウム製に変えるというのがあります。この部品はすでに紹介したとおりWNG社で販売しています。重さが1.6gしかなく、通常の真鍮部品よりも4g~7gほど軽くなります。鍵盤レシオはどのグランドピアノもだいたい0.5くらいですのでバランスウエイトがその半分、2gから4g弱減るわけです。鍵盤の慣性モーメントも支点からの距離に応じて小さくなります。支点から15cmであれば約1700gcm程度減らすことができるでしょう。部品自体が高価なので費用は中程度としてあります。なお、ねじ部が折れやすいので、入れるときには潤滑剤を塗ったり、下穴を大きめにあけなおすなどの工夫が必要です。

2013年12月7日土曜日

タッチを変える Page 28: 両側への鉛入れでタッチを重くする


慣性モーメントを考慮に入れたタッチの変更で、アップライトに応用できる技をご紹介します。バランスピンの両側、等距離に同じ鉛を入れるという方法です。写真に写っている上の鍵盤がそうです。この鍵盤には直径15mmの鉛がバランスピンから前後12cmの所に入っています。

釣り合っている天秤の両側に同じおもりを入れても変わらないように、この鍵盤もその釣り合いは変わりません。すなわち、バランスウエイトもフロントウエイトも変わらずに、慣性モーメントだけが大きくなっています。静的なバランスを考えると何も変わっていませんが、動的な抵抗を考えると確実に抵抗が増えていて、動きが重くなっています。

特に写真のようなアップライトで、タッチがスカスカで手ごたえが足りないとか、勝手に動いてしまう感じで「溜め」が足りないので何とかして欲しい、というような顧客には非常に有効な方法です。もちろんグランドピアノにも応用できます。

このアイデア自体は私のオリジナルではなく、一部のアップライトピアノやグランドピアノにすでに使われてきている手法です。私の方法を使うメリットは、どの位の鉛をどこに入れるか、ということを計算表でシュミレーションして数値化できるところです。鍵盤に穴をあけてしまう前に、要求される重さ・抵抗感を計算によって的確に判断して穴の位置や直径を決定できます。

使う鉛は写真にあるような15mmの鉛でなければならないわけではなく、小さいものでも良いわけですし、入れる場所(距離)を変えることによっても増える慣性モーメントが変わってきます。どんな組み合わせであろうと、何%増やす、と意識してやれば何かあっても、そこからの調整もまた可能です。

なお実際の作業では、後ろ側を両面テープで貼り付けておき、手前側はまずは等距離の位置に置いておいて、バランスウエイト鉛測定を行った上で前側の鉛を微妙に前後させてバランスウエイトを揃えると良いでしょう。慣性モーメントも揃い、バランスウエイトも揃い、一挙両得です。鉛の位置を割り出したら、印をつけてから鉛入れ作業をすれば良いわけです。アップライトでここまでのコストをかける顧客はそう多くはないと思いますが、少なくともタッチの問題を解決する手法の一つとして持っていると選択の幅が増えます。

次からの3枚のスライドで本講義のまとめをします。タッチを変えるために何ができて、どんな効果があるのか、を表にまとめて紹介していきます。

2013年12月6日金曜日

タッチを変える Page 27: 鍵盤の慣性モーメント調整の限界値


鍵盤は細長い形状をしているので、慣性モーメントを調整する幅が大きいことは書きました。では、いったいどのくらいの範囲でできるのでしょうか、あるいはピアノによって差があるのでしょうか。私の慣性モーメント計算表で試算した数値で比較してみます。一つは同じピアノで音域による違い、もう一つはピアノの機種による違いです。

まずは同じピアノでの違いを考えてみます。小さめの楽器ですと、鍵盤の長さは低音から高音まで同じで、音域によって入っている鉛の数が変わるので慣性モーメントはそれに応じて変化しますが、全体としてそれほど大きな違いは出てきません。しかし、大きい楽器、たとえばコンサートピアノでは弦長と打弦点の関係から鍵盤が長く、特に低音の鍵盤は高音に比べより長くなっているので、鍵盤の長さが一鍵一鍵異なっています。

この例として、スタインウェイのコンサートピアノを調べてみます。上の表にある通り、低音の下から2番目のC音、中音の真ん中のC音、そして、次高音のC音を比較します。

低音のC2(下から2番目のC音の意味)ではオリジナルの鍵盤で68100gcmありました。この鍵盤には鍵盤手前の方に鉛がまとまって入っているため慣性モーメントを増やす方向では1600gcmしか調整幅が取れません。もちろん、オリジナルの状態で十分重く動きづらいので、これをもっと動きづらくしてほしいという要望はないものと思います。軽くする方向では8200gcm減らすことが可能です。調整幅は9800gcmあることになります。

中音のC4音(真ん中のC音)はオリジナルの鍵盤で52700gcmありました。この音にも鍵盤手前に鉛が集中していたので慣性モーメントを増やす方向では1600gcmしか調整幅が取れません。軽くする方向では6600gcm減らすことが可能です。調整幅は8200gcmあることになります。

次高音のC6音はオリジナルの鍵盤で46500gcmありました。この音も慣性モーメントを増やす方向では700gcmしか調整幅が取れません。軽くする方向では5800gcm減らすことが可能です。調整幅は6500gcmあることになります。

この3つの音の鍵盤を比べるとC2が一番長く、C4が中くらい、C6は一番短いので、慣性モーメントの調整幅はそれに応じて小さくなっています。鍵盤が短いと鉛を入れることのできる場所が狭いのと、入れるべき鉛の量が少ないので、このようになります。また、ハンブルク・スタインウェイの鉛入れは基本的に端に寄せるようにするため、慣性モーメントをそれ以上増やすことは、やってやれないことはないですが、普通やりません。反対に減らす方向にはかなりの余地があります。そして、軽くしたいという要望は多いと思われるので、それを満足させるには十分な余地があるといえます。

ちなみに同じスタインウェイでもニューヨーク製の楽器は鉛をバランスピンに寄せるのと、鍵盤をかまぼこ型のバランスブロックに載せるのとで、アクセラレーテッドアクションと銘を打ってアクションの動きの軽さをセールスポイントに置いています。慣性モーメントの影響を積極的に取り入れている実例です。

ピアノの大きさによって鍵盤の長さがだいたい決まってきます。どのメーカーも似たようなタッチウエイトとスケールデザインになるので、似たような長さの機種ならば必然的に鍵盤の長さも似たようなものになります。バランスピンからの距離が似たような数値ならば慣性モーメントも似たような数値になってきます。ここでは、中央のC音について4機種を比べてみます。

1つ目は上で使ったスタインウェイのコンサートピアノです。これはオリジナルの鍵盤で52700gcm2 、重くする方向では1600gcm、軽くする方向で6600gcmの調整ができ、合計で8200gcmの幅がありました。

2つ目はベヒシュタインのモデルAです。これはオリジナルの鍵盤で29600gcm、重くする方向では1500gcm、軽くする方向で4500gcmの調整ができ、合計で6000gcmの幅があります。コンサートピアノよりは小さいピアノのため調整幅が少なめです。

3つ目はヤマハのC3、時代によって少し違うかもしれませんが、身近にあったものを計測しました。オリジナルの鍵盤で33500gcm、重くする方向では1500gcm、軽くする方向で3500gcmの調整ができ、合計で5000gcmの幅があります。ベヒシュタインと同じようなサイズなので、同じような数値が出てきました。

4つ目は参考のためのアップライト、カワイK30Eです。オリジナルの鍵盤で6000gcmの値です。重くする方向では大きな鉛を前後ろ等距離に2つずつ入れるとして14700gcm、が可能としておきました。もっと重くすることも可能ですが、あまり現実的ではありませんのでそこで止めてあります。この手法については次のスライドで詳しく説明します。軽くする方向は肉抜き加工する以外調整できません。

小・中型のグランドではタッチを重くして欲しい人もいれば軽くして欲しい人もいると思われます。鍵盤のこの数値を見るとそれらのピアノは十分にその要望に答えることのできる調整幅を持っていると言えそうです。アップライトは重くして欲しいという場合が多く見受けられますので、これもうまく満足してもらえることができると思います。

2013年12月5日木曜日

タッチを変える Page 26: 鍵盤の慣性モーメント調整


鍵盤はハンマーやウイペンに比べ単体の慣性モーメントが大変大きい値を持っています。たとえば写真上の鍵盤はスタインウェイのコンサートピアノの真ん中のC音ですが、オリジナルの慣性モーメントは52700gcmでした。慣性モーメントの値は計算式(質量×距離2)を思い出していただければわかり通り、距離が二乗で効いてきます。鍵盤はハンマーやウイペンに比べ支点からの距離が比べ物にならないほど長いので大きい値になるのは当然なわけです。

この鍵盤ではハンマー単体の慣性モーメントは1840gcm、ウイペンは756gcmでしたので、鍵盤の慣性モーメントの大きさは文字通りケタ違いです。何度も述べているように、回転角度の比の関係で弾き手が感じる等価慣性モーメントはハンマーによるものが一番大きくなりますが、鍵盤も調整によってタッチに影響を与えることができます。

写真の鍵盤はすでに慣性モーメント調整済みで、この状態で46800gcmと、オリジナルより11%少なくなっています。これは以前にも書きましたが、一番外側の鉛を抜いて、バランスピンに近い側に移し替えた実用的な調整法を採用しています。

外見を気にする顧客では、元の鉛の穴をふさいだ方が良いでしょうが、このピアノではわざとふさいでいません。埋め木の分の慣性モーメント増加を避ける目的です。もっと言えば、バランスピンから遠くを中心に木部に肉抜きを施せばその分慣性モーメントを減らすこともできます。もちろん、やりすぎて強度を落とすのは避けなければなりません。

アメリカのWNG社が製造しているアルミニウム製のキャプスタンスクリューに変えると4gから6g軽くなりますので、それだけでも1000gcm程度減らすことができます。付け足しておくと、これによってバランスウエイトも2gから3g減らすことができます。

比較のために写真にはアップライト(カワイK30E)の鍵盤も並べています。この鍵盤の慣性モーメントは6000gcmしかありません。何と言っても鍵盤が短いのと、鍵盤鉛が入っていないためこんな小さな数値になっています。アクションを乗せない状態で双方の鍵盤を手で上下して見ると明らかに動きの違い、動くときの抵抗感が違います。もちろん、アップライトの鍵盤は軽く動き、コンサートグランドではやや大きい抵抗を感じるでしょう。

このアップライトの鍵盤にしても短いですが、鉛を入れることのできる領域があり、慣性モーメントを調整できます。別なスライドで詳しく説明しますが、積極的に鉛を入れて慣性モーメントを増やし弾き心地を変えることができるのです。

2013年12月4日水曜日

タッチを変える Page 25: ハンマーの質量調整によるタッチへの効果

前回のスライドで見たように、ハンマーの質量調整はタッチへの影響に効果的な反面、調整幅が小さいのが難点でした。

ピアノによってハンマーの質量の影響は変わりますが、ここでは、前のほうで例に使ったスタインウェイのコンサートピアノで見ていきます。ハンマーの重さの変化がタッチにどのくらい変化をもたらすかです。

表の一番上は0.2g調整した場合です。これは減らしても増やしても同じです。プラスになるかマイナスになるかの違いです。バランスウエイトはこのピアノのストライクレシオが5.5のため1.1g変化します。鍵盤手前で感じるハンマー由来の等価慣性モーメントは3700gcm2 の変化です。バランスウエイト1gの違いはあまり感じないかもしれません。アクションの動きは少しは違いを感じる程度でしょうか。

ハンマーを1g軽くした場合はこの5倍変化することになりますので、バランスウエイトは5.5g、等価慣性モーメントは18600gcmの変化になります。このアクションの合計慣性モーメントから見るとこれだけで8%近く減ることになります。このくらいやると相当タッチに影響が出そうです。もちろん音色音量も結構変わってしまいそうですね。

削る量は前回のスライドで見たようなやり方で微調整できますので、デジタルはかりを使いながら削り込んでいけば、あるいは入れる鉛を調整すれば0.1g単位で調整することが可能です。そういう意味では、ハンマーが1gの幅で調整できるのであれば通常の仕事としては十分な調整範囲を持っているといって良いかもしれません。

次にハンマーの質量の変化と同じ効果をウイペンや鍵盤ではどのくらいで得られるのか比較してみましょう。

ウイペン全体の鍵盤手前での等価慣性モーメントは4300gcmしかありません。これはハンマー0.2gちょっとの分と同じです。これはウイペン全体を取り去っても、ハンマー0.2gと同じ効果だということを意味します。かなり強引な例ですが、このことから、ちょこちょこっとしたウイペンの肉抜きや軽量化などはほとんどタッチには影響しないのがお分かりいただけると思います。

例外は、アシストスプリング(調整ねじつきでも、なしでも)付きのウイペンに交換する場合です。この部品はバランスウエイトを効果的に減らすことができます。それによって鉛も減らせるので慣性モーメントも減らせます。あまり強すぎるとスプリングの感触が弾き手の指に伝わってしまうという欠点もあります。(詳しくはこのブログの古い記事、第2章2項他をご参照ください http://yujipiano.blogspot.co.nz/2012/11/blog-post_598.html

鍵盤は別なスライドで説明しますが、多いものでは慣性モーメントを8000gcm程度まで調整できる幅があります。ハンマーでいうと0.5g程度に匹敵するので、なかなか馬鹿にはできない数字です。アクションを外して鍵盤だけ指で上下させても慣性モーメントの違いは体感できますが、特に長い鍵盤の楽器ではやはりその値の少ない方が軽く敏感に動きます。

2013年12月3日火曜日

タッチを変える Page 24: ハンマーの質量調整


ハンマーの質量はさほど大きくはありませんが、Page19の等価慣性モーメントの説明で分かっていただいた通り、角度比の関係でタッチへの影響が非常に大きくなります。

それではタッチが重いからと言って、ハンマーの質量を無制限に小さくしても良いでしょうか?それには2つの問題がからんできます。1つは音色の問題で、もう一つは一台として考えたときのばらつきの問題です。

たとえば1gハンマーの質量を減らすとしましょう。これはおおむね1オクターブくらい上のハンマーの質量と同じです。すなわち、1オクターブ上のハンマーと取り替えることと同じになります。ハンマーの質量は弦を振動させるのに必要で、弦が太く長くなればなるほど軽いハンマーでは良い音が出ません。極端な話、次高音のハンマーで低音弦を叩いても深みも音量も出ないでしょう。ですから、むやみにハンマーを軽くすると音色と音量共に損なわれる危険性があります。一部のメーカーのピアノに見られるように、もともと重すぎるハンマーが付いていたり、削っても0.数グラムくらいであればさほど問題にはならないと思います。

もう一つの観点はハンマーストライクウエイトのばらつきの問題です。例を上げてみます。
これがスマートチャートです。スマートチャートはスタンウッドイノベーションズの登録商標で、ピアノテック社から購入することができます。横軸が鍵盤(左が低音右が高音)縦軸がハンマーストライクウエイトで、小さなブロックごとに0.1グラム刻みで数値が振ってあります。高音にいくほどハンマーが軽くなりますので、図のような曲線になります。

この写真はあるピアノでの実例です。図中黄色の点々がオリジナルのハンマーストライクウエイトです。もちろん使い込んであり、音によって消耗度が違うので重さがばらばらです。紫色が加工前の新しいハンマーのハンマーストライクウエイト、赤色がハンマー質量調整をした後のデータです。ハンマーは一見同じように見えますが、ウッドの密度のばらつきや接着剤の量のばらつきなどによって一音一音意外と揃っていません。特に低音と高音の間ではハンマーウッドの長さが違うので1グラム近くギャップがあるのが普通です。スタンウッドのポリシーでは一台のピアノではなるべくスムーズに揃えます。ですから、ものによっては1g近く質量を減らさないといけないかもしれませんが、別な音では逆に0.2gくらい質量を増やさないといけないかもしれません。

それを考えますと、一台のピアノのハンマーを全部同じように極限まで減量するのはタッチのばらつきや音色のつながりのばらつきにもつながります。われわれはタッチを調整する方法を探っているのですから、軽ければよい、というのではなく個々の音でタッチが良く、全体でもスムーズに揃っているという状態を目指したいと思います。

としますと、どの位の精度でやるかにもよりますが、おおむね0.2グラムから0.7グラム位までのハンマーの質量調整が一般的だと思います。

どのように調整するかは、スライドに上げておきました。減量したいときには、ハンマーの両脇を削る(テーパー加工)、テールを削る(テール加工)、テールの内側曲面を削る(インナーアーク加工)が考えられます。もっと、という人はウッド部分に小さな穴をあけたり、リベットを取り除いたり、ハンマー上部側面のフェルトと木部を削るなどが可能です。逆に重くしたいときにはハンマーウッドにハンマー用鉛を入れると良いでしょう。写真のハンマーには代替材料として真鍮棒を使っています。

ハンマー交換をするのであれば、テールやテーパーが未加工なハンマーを購入し、それらの削り具合を質量調整と合わせて行うとより調整幅が大きく取れて良いと思います。

ハンマーの質量はバランスウエイトと慣性モーメントに影響するわけですが、どのくらい影響するのかを次のスライドで考えます。

2013年12月2日月曜日

タッチを変える Page 23: アクション全体のタッチの変化を調べる


前回のスライドではバランスウエイトと鍵盤の慣性モーメントをどのようにシュミレートしてどんな作業をすれば良いか、を考える手順を説明しました。

スタンウッドの公式を利用してバランスウエイトを設定して、そこから得られたフロントウエイトを利用して鍵盤の慣性モーメントの値を設定しました。この続きとして、アクション全体の慣性モーメントがどのようになるのかチェックします。上図をご覧ください。この表は先ほどの3つの計算表と連動していて、必要なデータは自動的に表示されます。等価慣性モーメントを算出するために必要なデータはこの表の下の部分に入力します。

この例ではハンマーが0.4g減量したのとパンチングのカットによって比が変わったので、等価慣性モーメントが7%減っています。鍵盤の慣性モーメントは前回のスライドで紹介したうち実際的な鉛移動オプションを選び、11%減っています。

アクション全体の慣性モーメントは結局オリジナルよりも8%減らすことができました。このうち72%がハンマーによるもので、27%が鍵盤によるものです。バランスウエイトは5%減りますし、これらの作業をすることによって確実にタッチが軽くなることが想定されます。

これで、私の提案するタッチ調整方法の流れの説明は終わりです。スタンウッド方式の説明と慣性モーメントの説明、そしてそれを組み合わせて実際にタッチを調整する過程を説明してきました。次のスライドからは実際に個別の部品での調整方法とその効果について説明していきます。

2013年12月1日日曜日

タッチを変える Page 22: バランスウエイト・慣性モーメント設定手順


今回は3つの表をたてに並べました。一番上がスタンウッドの公式計算表、二段目がフロントウエイト計算表、そして3段目が慣性モーメント(鍵盤)計算表です。

この例に使ったシュミレーションは、顧客からの要望により、アクションを少し軽く、そして少し動きやすくするのが目標です。いろいろなアプローチができるわけですが、ここでは単純に「こんなことができる」という例としてお考えください。

まず始めにスタンウッドの公式計算表を作ります。オリジナルのアクションを始めの方のスライドで紹介した通りのやり方で測定し入力します。この例ではオリジナルのバランスウエイトが40gでした。標準の重めの方ですがもう少し軽く、という要望ですので38gあたりを狙うつもりでシュミレートしました。フロントウエイトは28.9gで、スタンウッドのフロントウエイトシーリング値の30gより約1g少なめです。慣性モーメントを効果的に下げるためにはこれをもう少し下げることができると良いはずです。

ここから、シュミレーションが始まります。実物に手を加えなくとも何をしたらどのような効果が上がるのか見当がつきます。ここで使える駒は多くはありませんが、何かしらの効果を期待できます。たとえば、この場合はタッチを軽くしたいわけですからバランスウエイトを減らすことのできることをやってみます。たとえば、ハンマーストライクウエイトを減らす、アクションストライクレシオを下げる、鍵盤鉛調整を行いバランスウエイトとフロントウエイトの関係を変える、などです。このアクションではフリクションが11gなので、その調整は必要ありません。

スタンウッドの公式2段目はハンマーストライクウエイトを0.4g減らした(ハンマーの木部を削った)と想定したシュミレーションです。オリジナルで10.9gあったハンマーストライクウエイトを10.5gにしました。この場合他の項目、アクションストライクレシオやウイペンフロントウエイトは変わりませんので、バランスウエイトだけ変わります。計算でいくと0.4g×5.5=2.2g、ハンマーが軽くなってそれが5.5のストライクレシオで換算されて、バランスウエイトが減るはずです。

これだけでも38gのバランスウエイトは達成されそうですが、フロントウエイトは変わらず慣性モーメントの効果がもの足りません。ハンマー由来の等価慣性モーメントは小さくなりますが、もう一押し何かしたいところです。

そこで、バランスパンチングクロスを半分に切ってバランスピンの後ろに置く、という作業を想定してみます。これはスタンウッド方式では良く知られた手法で、ストライクレシオを0.4くらい下げることができます。スタンウッドの公式3段目です。5.5あったレシオを5.1に変えてみます。この表ではレシオに計算式が入っていますので、そのように変えるためにはダウンウエイトとアップウエイトの数値を変えてそのレシオになるような組み合わせを得ます。この時にフリクションの値が変わらないような組み合わせを考えます。ウイペンやフロントウエイトなどはこの作業によっては変わりません。

10.5gのハンマーでレシオが0.4下がるのですから、10.5×0.4=4.2gバランスウエイトが減るはずです。そこで、ダウンウエイトとアップウエイトをそのように変えるとバランスウエイト34gを得ます。

34gのバランスウエイトは少し下がりすぎですので、それを設定値の38gにするために鍵盤鉛調整をします。

鍵盤鉛調整は一般的にタッチを軽く(重く)するためと信じられていて、これさえすれば良いと考えられている節があります。しかし、スタンウッドの公式を元に良く考えてみると本当の意味はそれとは異なるということがわかります。では実際鉛調整とは何なのでしょう。

鍵盤鉛調整は鍵盤に鉛を入れたり出したりしてダウンウエイトやアップウエイトを調整する作業です。この作業では、ウイペンやハンマー、ストライクレシオは全く変わらない、というところにご注目ください。スタンウッドの公式の右辺は変わりません。とすると左辺だけが変化することになります。といっても左辺の合計値は変わらないはずです。

つまり、鍵盤鉛調整はバランスウエイトとフロントウエイトの合計値を変えずに、それぞれの値の組み合わせを変える作業であると言えるわけです。例えばタッチウエイト(バランスウエイト)を4g軽くしたい時は、鍵盤手前に鉛を入れてそれを実現します。ダウンウエイトが52gだったものが4gの追加のおもりによって48gで動き出すようになるわけです。しかしこの場合、4gフロントウエイトが増えています。鉛を鍵盤手前に入れているわけですし、スタンウッドの公式によって示されている通り、左辺の合計値は変わらないはずだからです。この時鍵盤の慣性モーメントが増えていることにご注目ください。ダウンウエイトが減ったので、ゆっくり押し下げたときには軽くなった感触は得られますが、実際に弾いてみると慣性モーメントが増えた分、動きづらくなった感じが出ます。数字を見て軽くなったと信じてしまうわけですが、実際に弾き手から見ると動きが悪くなった分、さほど軽くなっていないと感じられることでしょう。

逆にダウンウエイト45gのアクションでは、鉛を4g分抜くと49gまで重くなります。この場合はフロントウエイトが4g分軽くなっているわけです。この時には鉛を抜いていますので、慣性モーメントは減っています。静かに押したときのタッチ感は重くなりますが、動きが軽くなります。この例ですと、40gだったバランスウエイトを38gに減らすことですでに「もう少し軽く」の目標を達成していますから、残りの分で慣性モーメントを減らしたほうが「もう少し動きやすく」を実現するために効果的であることがお分かりでしょう。

上の例では34gに下がりすぎてしまったバランスウエイトを当初の予定である38gに戻すために鍵盤鉛調整をし、それによってフロントウエイトを4g意図的に減らそうという狙いです。そうすれば慣性モーメントを効果的に減らすことができます。ここではフロントウエイトが24.9gに減りました。フロントウエイトシーリング値と比較すると約5g少ない値となっていますので、その効果が期待されます。

上記のシュミレーションで推定フロントウエイトの24.9gを得ることができました。次に慣性モーメント計算表を使って鉛の配置をシュミレートします。前回のスライドで説明したように、フロントウエイト実測値と計算値で2.2gの誤差がありましたので、推定フロントウエイトの24.9gから誤差2.2gを引いた22.7gのフロントウエイト計算値を得られる鉛の配置を調べます。慣性モーメント表では入力された鉛の位置や重さによってフロントウエイトと慣性モーメントのそれぞれが算出できますから、フロントウエイト計算表の欄を見ながらそれが22.7gになるようにモーメント計算表の鉛の位置と質量の数値を入れ替えます。

慣性モーメント計算表2段目(B列)では最低値を求めてみました。慣性モーメントはオリジナルの50400gcmから41200gcmに下がります。18%の減少です。フロントウエイトは22.7gに計算されています。かなり効果的ではありますが、実際の作業を考えますと既存の鍵盤鉛を全部抜いて埋めて、新たに全部の鉛を入れなおさなければなりませんので手間はかなりかかりそうです。

そこで、実際の手間が少なくて済む配置を考えてみます。これが3列目(C列)です。一番外側の鉛だけ抜き、バランスピンに近い場所にバランスウエイトをチェックしながら入れなおす、という方法です。この作業で得られる慣性モーメントは44700gcm2 、11%の減少という結果が得られます。もちろんこれも22.7gのフロントウエイトが実現しています。このやり方ですと、一番外側の鉛をあらかじめ抜いておいてから、バランスウエイト基準の鉛調整をすれば良い訳で、通常のやり方とあまり変わらない時間で作業することができます。(中村式の鍵盤鉛調整法については過去の記事、第10章 http://yujipiano.blogspot.co.nz/2012/12/blog-post_10.html の1から4をご覧ください)

これで、バランスウエイトを2g減らし、鍵盤の慣性モーメントを11%あるいは18%減らすことができる方法を得ました。当初目標としたタッチをもう少し軽く、そしてもう少し動きやすく、を実現できそうです。

この段階ではアクション実物に何も手を入れていません。しかし、すでに何をすれば良いのか、どんな効果が期待できるのかがわかりました。あとは実際に作業していくだけです。もちろん、これは推定ですから、実際の作業に当たってはチェックなしで全部やってしまうのではなく、ポイントごとにチェックして確認・方向修正をしながら進めていきます。

この音全体の慣性モーメントの変化は次のスライドで検討します。